差し出した紙袋を見て懐かしそうに呟くのは、『松和荘のマドンナ』こと
「以前、旦那様から頂いたことがありますの」
――目の前で焼いてくれるんだ、とても面白かったよ。今度、見に行かないか――
そんな約束は、果たされなかったけれど。
「あー、おやつだおやつ!」
「いただきまーす」
目敏く群がってきた下宿人によって、あっという間に袋は空になり――。
「文さんへのお土産だったのに……」
「いいんですのよ。今度、また買って来てくださいまし」
今も昔も、きっとこの先も。
この笑顔が見たくて、松来家当主はいそいそと、甘い菓子を選ぶのだ。