お姫様は純白の花嫁衣装を着て、愛しい王子様のもとに嫁ぎ、二人は末永く幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし。
そんな童話の結末をこよなく愛していた彼女――世継ぎの姫ライラ・ロジーナが戴冠式のために選んだのは、まさにその『純白のドレス』だった。
「私は国家と結婚するのだ」
そう公言して憚らない彼女だ、ある意味『有言実行』なのかもしれないが、これを好機とばかりにリボンやレース、ビーズなどをふんだんにあしらい、絢爛豪華な衣装に仕上げたのは、いかにもばあやさんらしい。
「おかしいな。白なら質素になると思ったのに」
案の定、彼女はドレスの仕上がりに驚きを隠せないでいる。こればかりは、ばあやさんの執念を計算に入れなかった彼女の失策だ。
「これは想定外だったな。どう思う、テオ?」
そう問われて、思わず言葉を失う。
なんと答えたら、彼女は納得するだろうか。
「率直に言ってくれ。お前の言葉なら何だって、私は受け止める」
なんとも頼もしい言葉とは裏腹に、その表情はどこか不安そうで。
初めて出会ったあの日、父王のマントに隠れてこちらを窺っていた時と、何一つ変わらないその様子に、ほっと肩の力が抜けた。
「とても似合うよ、ジーナ」
それが、たとえ手の届くものでないとしても。
――いいや、手が届かないからこそ、それはきっと美しくて。
だからこそ僕は心から言えるのだ。
「まるで氷の女神様みたいだ」
「それは褒めてるのか?」
「最大限に褒めてるんだってば」