彼女が選んだのは、純白のドレス。
「私は国家と結婚するのだ。ならば白こそ、最も相応しい色だろう?」
雪深き北の小国。病に伏した父の後を継ぎ、天鵞絨の王座に就くことになった姫は、女官達を前に紅唇を引き上げる。
「姫様の花嫁姿を見るのが夢だったとはいえ、これは些か不本意でございます」
わざとらしく泣き言を漏らす乳母に肩をすくめたところで、扉が開く音がした。
「ああ、ジーナ。間に合ってよかった」
息せき切って現れた庭師の手には、冬咲きの薔薇。
急なことで冠も装身具も間に合わなかった。秘密の庭に咲いた最後の一輪。その赤だけが、彼女を彩る。
「――姫様。お時間です」
「分かった。今行く」
白亜の姫は今宵、氷雪の女王となる。