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 昭和レトロ、などという言葉がぴったりの、どこか懐かしい雰囲気を漂わせた商店街の片隅。
 二十年ほど前に雑居ビルから建て変わった小規模マンションの一階部分にある『芥不動産』は、戦前からこの地に居を構える、老舗の不動産屋だ。
 老舗とはいえ、社長と社員、それにパート事務員の計三名で回している小さな店だから、『ただいま外出しています』の看板がかかっていることも多い。
 もっとも、『芥不動産』が客で溢れ返っていることなどほとんどなく、『四代目』と親しみを込めて呼ばれている社長は常にお茶を挽いている。
「まあ、潰れない程度には儲かってるから大丈夫」
 とは社長の口癖だが、事実、経営不振に陥っていないのだから大したものだ。
 客の中には不躾(ぶしつけ)に「何か悪いことでもしてるんでしょう」なんて揶揄(からか)ってくる人間もいるが、社長は決まってこう答えている。
「なあに。うちには守り神がいるからね」

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© 2023 seeds/小田島静流