梅雨入りが宣言されたと同時に、しつこく降り続いていた雨はぱたりと止み、初夏を思わせる気候がかれこれ一週間も続いている。
「今年は空梅雨かねえ」
「水不足になると困りますわね」
心配そうに呟く文さんの視線の先には、こんもりと生い茂る紫陽花。松和荘の庭に咲く紫陽花は空よりも青く、雨に濡れるとより一層美しい。
憂鬱な梅雨にも、楽しみはある。それをことごとく奪っていこうとする昨今の異常気象は、本当に恨めしい。
「ほどよく降って、ほどよく晴れてくれたらいいのにね」
「こればかりはお空のご機嫌次第ですもの」
くすくすと笑いながら緑色のホースを構え、手際よく水を撒く。
水の飛沫が光を反射して、小さな庭に小さな虹がかかった。