もう桃の節句に浮かれるような年齢ではないというのに、今年も文さんは嬉々として雛人形の飾りつけに余念がない。
立派な七段飾りは、初孫に浮かれた祖父母がわざわざ遠方の人形問屋まで足を運んで購入したものらしい。
「出すだけでも大変だから、もういいって言ったのに」
「いいえ。一年に一度のことなのですもの、手は抜けませんわ」
そう答えた文さんは、ふと思い出したように笑みを零す。
「そういえば、この雛飾りをお求めになった理由は、女雛が香澄さんに似ているからだったそうなのですけれど、対になる男雛の顏が良すぎると言って、大旦那様が文句をつけてらしたんですのよ」
妙な言いがかりをつけられて、彼らもさぞ迷惑だったに違いない。