はらはらと舞い降りる薄紅色の花びらに、在りし日の思い出が重なる。
土手の桜並木が綺麗だからと、買い物帰りに寄り道をして。
春の嵐に髪を乱されながら、舞い踊る桜吹雪にはしゃぐ彼女。
川面を流れる花筏を見つめる横顔が随分と大人びていることに、改めて気づかされた。
出会って五年。気づけば私も彼女も、すっかり大人になってしまって。
昔のように、無邪気に笑い合うような間柄ではなくなってしまったけれども。
もし――もし叶うことならば。
この穏やかな時間が、ずっと続いて欲しい。そう願っていた。
はたと目を瞬かせ、桜並木を見つめる。
ああ――もう彼女はいない。いないのだ。
そうと分かっているのに、つい彼女の姿を探してしまう。
椿が散り、桜が咲く。時は否応なしに流れていくのに、花は今年も美しく咲き誇る。
それならば――時が戻ったように、何でもなかったように。今にも彼女が木陰からひょいと顔を覗かせるのではないかと、儚い期待を抱いてしまうのだ。
桜が人を惑わすというならば、ああ――どうか。
泡沫の夢でもいい。彼女の笑顔を、もう一度見せておくれ。