ジリジリと肌を焼く、強烈な太陽光。
夏が来るたびに、東京の夏は過酷だと思い知らされる。今日も真夏日、明日も真夏日。青空には絵に描いたような入道雲が浮かび、そこから見え隠れする太陽は必要以上にやる気満々だ。
「焼ける……焼け死ぬ……」
剥き出しの手足がじんわりと焦げていくのが分かる。こんな時間に帰宅する予定ではなかったが、急な休講でバイトも無し、給料日直前で金も無しとくれば、寮に帰ってふて寝をするくらいしかない。
最も気温が上がる午後二時。熱中症を恐れてか、誰ひとり歩いていない道をとぼとぼと辿ること十五分、大学二年の桐崎侑斗はようやく、住み慣れた我が家――政駿大学男子学生寮――へと辿り着いた。
もっと大学の近くに建ててくれればよかったものを、なぜ最寄駅の隣駅、しかもこんな住宅街のど真ん中に建てたのか。バス・トイレ共同はまあ仕方ないとはいえ、なぜ今時エアコンすらついていないのか。文句は色々あれど、水道光熱費と食費を含めて月額4万円という圧倒的な安さの前には口をつぐむしかない。
そんな築数十年のオンボロ寮に入寮して一年と少し。食事時間と門限さえ守れば、あとは割と自由に暮らせる寮生活は性に合っていたらしく、これまで大したトラブルもなく過ごしてきた。
とはいえ、四畳半に作りつけのベッドと学習机、カラーボックスとテレビを置くのが限界という、カプセルホテルもかくやの狭小空間に耐えきれず、出ていく学生も少なくない。最盛期はキャンセル待ちもあったという学生寮も、現在の住人は四割強。入寮希望者激減と老朽化を受けて、来年度には取り壊しが決定しているが、それもまだ先の話だ。
「ただいまぁ~」
鉄線入りのガラス戸を押し開けて、薄暗い玄関へと足を踏み入れる。共用部にもエアコンはないが、直射日光がないだけで大分涼しい。
靴箱が並ぶ玄関横には管理人室。その横には大きな掲示板があり、設備点検のお知らせだの夏祭のチラシだのが貼り出されている。
スニーカーを脱ぎながら何気なく掲示板へと目をやった侑斗は、貼り紙に気づいてなになに、とにじり寄り――そして次の瞬間、かっと目を剥いた。
『解体工事のお知らせ』
「はあああああああああ?」
素っ頓狂な叫び声は廊下に響き渡り――そして管理人に雷を落とされたのは言うまでもない。