記録 |
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復活歴122年 五の月十五日 薄曇 | |
一緒の部屋で寝泊りするようになって四日目。未だ、よく眠れないようだ。 誰かと同じ部屋で眠ることに慣れていないせいもあるようだが、どうやら悪夢にうなされているらしい。 日に日に目の下の隈が酷くなってきたので、転寝しているところにこっそり神聖術をかけようと近づいたら、反射的に飛び掛ってきた。まるで手負いの獣だ。 とはいえ、こちらもこんな子供に押し負けるほど老いてはいないつもりだ。咄嗟にその手首を捕らえて、そのまま押さえ込んだ。掴んだ手首は折れそうなほどに細く、改めて彼の過ごしてきた苛酷な環境を思い知らされる。 何か喚きながら暴れ出したので、そのまま神聖術で眠らせる。ようやく安らかな寝息をたてはじめたので寝台にきちんと寝かせて、布団を掛け直した。 悪夢の原因は見当がついている。あれほどの大怪我をするに至った経緯が、ようやく調査から浮かび上がってきた。 一匹狼だったが、慕ってくる子供達の面倒を渋々ながらも見ていた『ウル』の存在は、貧民街ではそれなりに有名だったようだ。抗争に巻き込まれたのも、そのせいだろう。厄介な芽は小さいうちに摘んでおいた方がいい、そう考えた人間がいたとしてもおかしくはない。 『事件』が正当防衛であることは、目撃証言からして明白だ。 それでも――人を殺めた事実に変わりはない。 それが、あいつを苦しめている。これから先、ずっと、あいつはその苦しみと向き合っていかねばならない。 しかし――それは、武器を手にした時に、覚悟しなければならなかったことだ。 傷が癒えたら――ユークの教えよりも先に、まずそれを説こうと思う。 戦士の心得。そして、生きることの覚悟。 あいつの魂が、悪夢――現実を受け止められるようになるまで。たとえ鬱陶しがられようが、何度でも。 辛気臭い経を唱えるよりは、よほど私向きの仕事だ。 |