貧民街で生きていた頃、俺には『今日』しかなかった。
過ぎ去った日々を振り返る暇も、不確かな明日を考える余裕もなくて。
毎日が、辛く苦しい今日の繰り返し。どんなに足掻いても何も変わらず、いつもひもじくて、どうやって今日一日を生き抜こうか、それしか頭になかった。
ある日、抗争に巻き込まれ、瀕死の重傷を負い。
義父に引き取られ、神殿での生活を始めるようになって、俺は初めて『未来』という言葉を知った。
「明日を夢見ること。それこそが『未来』だ」
例えば、明日の昼飯は何だろう、とか。
今日は出来なかった問題も、明日こそは読み解けるようになっているかもしれない、とか。
そんな希望を抱けること。
それこそが『未来』なのだと。